ハマダ伝・PART2  
    うたの記憶




『うたの記憶』その5 僕の愛しい歌

今はもうお亡くなりになったと聞いていますが、私が広告屋時代に担当させてただいたある食品会社の社長さんがこんな話をしてくれたことがあります。

それは、ヒット商品を開発する時の心得として、出来上がった新製品を試食して、この線でいこうと決めたら、それからひと味落として商品化するのだという、まるで思ってもみない言葉でした。

最高に美味いと評価したものは、強力な支持者がいると同時に、自分はこの味は好きではないという人が必ず出てくる。で、どうするかというと、そこからひと味落とすのだそうです。そうすると、その味が大衆受けするという含蓄のある話だったのです。

さて、冒頭に、こんな話を書いたのは、大作詞家の阿久悠さんの本に、前にもちょっと書いた「なぜか売れなかった 僕の愛しい歌」というのがあるのですが、そこに書かれた阿久さんの言葉も、食品会社の社長さんが仰ったことを裏付けているような気がしたからです。

それには、こんなことが書かれていました。

ヒットした歌、売れた歌が、書き手と聴き手の間に共有できるものを持つのは当然だが、売れなかった歌に「思い」や「意欲」がなかったというと、そうではない。結果、売れた歌よりも、もっと自信のあった歌もあるし、売れなければいけなかったと自惚れる歌もある。

今、これらの歌を聴き、詞を読んでみると、売れなかったわけがわかる気がするのである。力がなかったとか、失敗したということではない。むしろ、その逆で、あまりにも意欲的であったり、挑戦的であったり、新しかったせいだということがわかるのである。

といったところで、ここでは、阿久さんが愛しいといった歌で、僕の好きな歌と、僕自信が愛しいと思っている歌を、ご紹介していこうと思っています。

真赤な鞄作詞:阿久悠 作曲:都倉俊一 歌:山本リンダ

この歌は、嵐のようなリンダブームが過ぎようとしている頃、いわゆる歌らしい歌を歌手山本リンダに与えたいと思って作ったものだそうです。

湘南哀歌」 作詞:阿久悠 作曲:宇崎竜童 歌:清水健太郎

これは、清水健太郎が歌っていますが、ウクレレの弾き語りで歌謡曲を歌うという写真家・浅井慎平さんのレコード・デビュー作。ジャケットのデザインは、横尾忠則さんということです。

青春三文オペラ」 作詞:阿久悠 作曲:井上忠夫  歌:井上忠夫

ぼくは、「三文オペラ」というフレーズが好きで、度々拝借している。この言葉に時代や状況を表す言葉を組み合わせると、滑稽さと悲哀の入り参った一篇のドラマが構築できるのである。と、この本には書いてありました。

棄てるものがあるうちはいい」作詞:阿久悠 作曲:村井邦彦 歌:北原ミレイ

北原ミレイのための作詞は、商品というより作品という姿勢でやらせてもらえたので、自由に大胆にかなりのタブー破りも平気で書くことができたそうです。

港町シャンソン」 作詞:阿久悠 作曲:高見弘 歌:ザ・キャラクターズ

ちょっと上質の鼻歌のつもり。流行歌らしいフレーズを平然と使ったと照れている。国籍不明の不思議な歌。などと、阿久さんは、この歌を評していました。

本牧メルヘン」 作詞:阿久悠 作曲:井上忠夫 歌:鹿内 孝

1970年代の始めの頃は、さびしさというのが死ぬ価値のあったような時代である。豊かになりそうな時代が目の前にあつて、しかし、豊かになったあとの空虚さも予感としてあったので、少年も少女もさびしくなっていたのだと思う。とは、阿久さんの言。

あれから」 作詞:阿久悠 作曲:鈴木キサブロー 歌:小林旭 

ぼくは、あれからという気持ちで何か大切なものを、見つけ出そうとしてこの歌を作り、たまたまその時は売れなかったが、真冬の深夜の友人からの、しみじみいい歌だねという感想の電話の電話のように、それぞれのあれからを考える時代が今だと思っている。とは、この歌に対する阿久さんの感想です。

面影」 作詞:水島哲 作曲:狛林正一 歌:三島敏夫

ここからは、私の、「僕の愛しい歌」です。1964年、東京オリンピックの年の影のヒット曲。隠れた名曲だと思っています。

帰れないんだよ」 作詞:星野哲郎、作曲:臼井孝次  歌:ちあきなおみ

オリジナルは昭和44年にクラウンから発売の三舟英夫の歌で、そのカバー。
「そりゃ死ぬほど 恋しくて とんで行きたい 俺だけど 秋田へ帰る 汽車賃が あれば一月 生きられる だからよだからよ 帰れないんだよ」この詞にジンときます。ちあきなおみの歌唱も秀逸です。

女のブルース」 作詞:石坂まさを、作曲:猪俣公章 歌:藤圭子

「何処で生きても 風が吹く 何処で生きても 雨が降る 何処で生きても 
ひとり花 何処で生きても いつか散る」正に、人生そのものです。

釜山の月」 作詞::中谷純平 作曲::松井タツオ 歌:清水節子

歌手・清水節子の真骨頂の男歌。「男が男で 生きるには祖国(くに)も名前も
ことばもいらぬ」ここに、私はシビれるのです。

つまさき坂」 作詞、作曲、歌:永井龍雲

「爪先上がりの坂道で 偶然君と出会ったのは 春の日にしては肌寒く 日射しの頼りない午後の事 うつむき加減に坂を下りて来る君を 僕はもう疾(と)くに立止まり見ていた ふと目を上げたその顔は まるで病葉(わくらば)が散るように 微かに揺れた」私の好きな抒情フォークの1曲です。

とまどいトワイライト」 作詞:阿木燿子 作曲:宇崎竜童 歌:豊島たづみ

ここからは、ちょっと毛色がかわり、都会派の楽曲。1979年 TBSドラマ(木曜座)「たとえば、愛」(倉本聡脚本、大原麗子主演)の主題歌です。

メモリーグラス」 作詞、作曲、歌:堀江淳

彼は、東京・広尾の交差点で昼間に信号待ちをしている時に「水割りを下さい。涙の数だけ」という歌詞とメロディーが思い浮かんだということです。

CHA CHA CHA」 作詞:今野雄二 作曲:B.REITANO他 歌:石井明美

1986年、テレビドラマ『男女7人夏物語』の主題歌。イタリアのダンスグループ「フィンツィ・コンティーニ(Finzy Kontini)」の楽曲のカバーです。

さて、さて、あなたの愛しい歌には、どんな歌があるのでしょうか?


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